シーン4/テティスとセレス。 ―運命の出会い。―
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コウ達は、呼び止めた旅人達に、その見たというエルフについて尋ねた。


「えっ、エルフ?」

「ええ。今、この目で見たって」

「ん、ああ。ここに来る道中の森でさ。見たんだよ。

背格好が・・・ああ、そこのお嬢さんより少しばかり低いくらいで、

後ろ髪が腰あたりまであって。それで、アレだよ。とがった耳。これって、エルフの特徴ってやつだよね」

それを聞いて、3人は顔を見合わせる。

彼らが言うとおり、それはまさにエルフだとわかる特徴だ。そして、

テティスが捜しているエルフと、面白いくらいに外見特徴が同じ。


と、ここでテティスが口を開く。

「それって、セレス君の事だよ、コウさん!マークさん!」

「え?セレス?」

テティスの言葉を聞いて、旅人が疑問の表情を浮かべる。

マズイ!・・・そう思ったコウは慌ててフォローする。

「いや!なんでもないです!

・・・ああ、この子の知り合いに、そのエルフにそっくりな子がいるとかいないとか・・・」

「?ああ、そうなのかい」

ちょっと、苦しいかな?と思ってドキドキするコウだったが。

旅人はとりあえず納得してくれたようで。

(ふう。よかった・・・)

コウは安心する。

自分達がエルフを捜しているなんて事を、まして

テティスがエルフと知り合いで、しかも一緒に暮らしている?なんて事を

この旅人が耳にしたら、騒ぎになるかもしれない。

慌てるコウを見て、テティスが何かを言おうとしたけれどとりあえずそれは制止しておく。


「・・・と、ところでここに来るまでに通る森って。グレダの大森林の事ですよね?」

「そうだよ。俺達は、大陸の北の方から旅をしてきたんだ」

「そうなんですか、僕達も北の方からこの街に来たんです」

「へぇ?じゃあ、やっぱりあの森を抜けたんだろう?」

「ええ。その時僕達もエルフを見たんです。

それで、もしかしたらあなた達の見たのと同じエルフなのかな?なんて思って」

「なるほどねぇ。・・・いや、お互い無事でよかったね」

・・・と、その後はこんな感じでしばらく会話が続いたあと。

じゃあ、そろそろ、と旅人達は街中に向かって歩いていった。



さて、そうして3人だけになってから。

さっき、口を開こうとしてそれを制止された事への不満でいっぱいのテティスに、コウが事情を説明すると。

「え〜?おかしいの。

グレナダの人達は、セレス君を見ても驚いたりしないよ?」と、テティス。

「え?そうなのかい?」

「ん。そうだよー。よく、セレス君も混じってみんなで遊んだりもするんだよ」

それを聞いて、コウは驚きと疑問が混じったような表情を浮かべる。

・・・。どういう事なんだろう?いや。

どうなっているんだろう、この街の人達は。

エルフを見ても驚かない・・・というか、エルフが人の中に溶け込んでいる?

コウが知る、というか、大体の人間が知る、エルフについての知識というのは。

書物などから得ているものがほとんどなわけなのだけど。

そこには記されていない事も、存在しているということなのか・・・。


と、ここで考えてもわからないな、と。コウは話を本題にうつす。


「さて、あの旅人がグレダの森で見たエルフだけど・・・」

「おう、テティスちゃんの捜してるっていうエルフの子と

まるでそっくりな特徴してるなぁ。

つーか、俺達が見たあのエルフも、おんなじよーな特徴してたよな?

・・・これって、もしかして同一人物だったりして?」

「・・・ていうか俺はそう思う。まず、エルフを目撃する事が、普通あるもんじゃない。

それに、俺達がそのエルフを見たのと、テティスちゃんが言う、セレスって子がいなくなったのと。

タイミングがほとんどピッタリだ・・・」

「んー、けどテティスちゃんが捜してるのって、男の子だろ?

俺達が見たのって、女の子っぽくなかったか?」

「ぽい、だけだろ?ちゃんと確認したわけじゃないじゃないか」

「ま、まーな・・・」


コウとマークがやりとりしているのを聞いて、テティスがそれに口をはさむ。

「コウさんもマークさんも、セレス君と会ったの!?」

「え、いや・・・セレスって子かどうかはまだわからないけれどね。

俺達も、この街に来るまでにエルフを見てるんだ。さっきの旅人と同じ森でね。

それが、テティスちゃんや、彼らの見たって言うエルフと同じような特徴だもんだからさ」

それを聞いて、そっかぁ、と、テティスは少し。考えるように黙りこむ。

そんなテティスを一度見て、それからマークが言う。

「どーする?・・・あの森にもう一度行って捜してみるか?」

「うん。俺もそう言おうと思ってたんだ。

テティスちゃんも、ある程度は捜しているって言っているし。それで見つからないって事は

少なくとも、この街にはセレスって子はいないと思う。」

「んだな。・・・でも、あの森に行くのは、あんまり気乗りしねーなぁ・・・」

と、そんなわけで、コウ達の次の行動が決定した。


「じゃあ、テティスちゃん・・・」

俺達がセレスって子を捜してくるからね、と、言葉を続けようとしたそこへ。

テティスが「ボクも一緒に捜しに行く!」と言い出す。

コウが、

「ダメだよ!街の外は危険なんだから。魔物なんかも出るんだよ!」

と、テティスを説得しようとするのだけれど、当の本人は

「ボクも行くの!セレス君が心配だもん」

と言って、引き下がろうとしない。


コウは困ってしまう。街の外が危険な事も勿論なのだけど。

それ以前に、見知らぬ家の娘を勝手に街の外まで連れまわすなんて、

そんな事出来るわけがない。


すると、テティスが。

「ちょっと、ここで待っててね!絶対、ぜーったい待っててね!」

そう強く念を押してから、どこかへ走っていってしまった。

街の入り口に、ふたり残されてしまったコウとマークは。

・・・仕方なく、テティスが戻ってくるのを待つことにした。


それから数十分ほどして、テティスがどこかから戻ってきて。

「何処に行っていたんだい?」とコウが訊くと、

「ウチに戻って出かけてくるって言ってきたんだ!これでもう、大丈夫だよ」

と、笑顔でテティス。

「へ・・・?いや、あの・・・大丈夫って」

「さ、さ!行こう、コウさん、マークさん!」

困惑するコウの手をしっかりと握り締めながら、やっぱり笑顔でテティス。

彼女は、本気だ。

「・・・テティスちゃんが大丈夫だって言うんだし、俺らふたりもついてるんだし。

大丈夫なんじゃないの・・・?」

と、軽く言ってくれるマークに。

(お前は、女の子と一緒にいれるから楽しいだけだろ・・・絶対)

と、心の中で突っ込み。自分の手を強く握って笑顔で見つめてくるテティスを見て。

今まで請け負ったどの依頼の時よりも、不安でしかたない、と。

コウは、自分の今の心の色と同じ、灰色の雲が浮かぶ空を見上げてそう思った。



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